まずは、学校現場で誤解が生じやすい根本的な理由についてです。それは著作権法における「学校教育の例外規定(第35条・第38条)」の存在です。
普段の授業では、先生が著作物をコピーして配布したり(第35条)、文化祭で市販のCDを流したり生徒が演奏したりすること(第38条)は、著作権者の許諾なしに行うことが認められています。 この感覚のまま、「学校の活動だから、SNSにアップしても大丈夫だろう」と考えてしまうのが最大の落とし穴です。
そしてインターネットへの投稿はこの例外規定の範囲外となります。
たとえ授業や学校行事の一環であっても、ネット上に公開した瞬間にそれは「公衆送信」という行為になり、一般企業や個人YouTuberと同じ厳しいルールが適用されるのです。
音楽には、演奏する権利・録音する権利・配信する権利など、複数の権利が絡んでいます。
特に注意したいNGになりやすいポイントは以下の通りです。
1.CD音源をそのまま動画のBGMにする
これは最もリスクが高いケースとなります。YouTubeやInstagramなどのプラットフォームはJASRAC等と包括契約を結んでいますが、これは主に「作詞・作曲」に関する権利処理であり、CDの音源そのもの(原盤権)を利用する許諾までは含まれていないことがほとんどなのです。
2.ダンス動画や演奏動画の「映り込み」と「利用」の違い
「体育館で流れていた音楽が入ってしまっただけ」というように、著作権法には「写り込み(付随対象著作物の利用)」という規定があるため、本来の対象とは異なる背景や音楽などがたまたま映りこんでしまった場合には許諾が不要となる場合もあります。 しかし、ダンス動画のように音楽が動画構成要素のメイン要素となってしまう場合は、立派な利用となってしまいます。
・OKの可能性が高い例: インタビュー動画の背景で、遠くから微かに校内放送で流している音楽が聞こえている
・NGの可能性が高い例: 体育祭のダンス競技を撮影し、その音楽に合わせて生徒が踊っている様子を投稿する
3.プラットフォームでの「公式利用」以外での利用
InstagramのリールやTikTokには、公式に楽曲を選択できる「音楽スタンプ機能」があります。これらを使用して動画を作成する場合は、プラットフォーム側が権利処理を済ませているため安全なケースが多いです。
しかし、別の編集アプリで音楽を合成してから、完成した動画ファイルとして投稿する場合は、その機能の対象外となるため注意が必要です。
この境界が曖昧なまま投稿してしまうと、著作権者から削除要請が届いたり、学校への問い合わせにつながることがあります。生徒指導・管理職の先生が急な説明対応に追われる事例も見受けられます。
参考:文科庁が公開している「学校における教育活動と著作権」に関する資料はこちら
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93874501_01.pdf
https://www.jasrac.or.jp/users/education/
https://www.jasrac.or.jp/park/inschool/
学校で完全なリスクゼロを実現するのは難しいものの、次のような手順を用意しておくと安心です。
1.投稿前に「使用音源のチェックフロー」を設ける
「BGMは市販の曲か? フリー音源か?」
「市販の曲の場合、それは動画編集時に入れたものか? プラットフォームの機能を使ったものか?」
「プラットフォームが包括契約している楽曲か?」
など確認フローを作成しましょう。
2.フリー音源や、公式の音楽スタンプ機能を活用する
最近では、クオリティの高い著作権フリーの音楽サイトが多く存在します。 「YouTubeオーディオライブラリ」や「DOVA-SYNDROME」など、商用・非商用問わず利用できるサイトのリストを学校側で共有し、「BGMにはこれらを使おう」と指導するのが最も安全です。
3.動画は「一般公開」せず、保護者限定などの「限定公開」で運用する
YouTube等に備わっている限定公開機能の利用や、パスワード付きの学校専用サイトでの公開に留めるという方法もあります。
SNSでの発信は、学校の魅力を伝える大切な窓口です。 しかし、音楽著作権のように「学校内の常識」とは異なる基準が適用される部分には、思わぬリスクも潜んでいます。
正しい知識を持って対策を積み重ねることは、学校を守るだけでなく、生徒たちが安心して活動できる環境づくりにもつながります。 今回の記事が、先生方の判断や校内での話し合いのきっかけになれば幸いです。
また、過去の記事でも「著作権」や「SNS上の違法行為」について解説しています。あわせてご活用ください。