ひと言で表すと、「18歳未満の若者が安全にInstagramを利用できるようにするもので、自動的にプライバシー設定が強化される機能」のことです。
Instagram(Meta社)は、昨年9月時点で米国、イギリス、オーストラリア、カナダでティーンアカウントの提供を開始。その後、2025年1月に日本国内でもティーンアカウントを導入することを発表しました。
Instagramとは皆さんもご存知のとおり、LINEやXに続き国内のユーザー数は約4,950万人と、国内でも多くの人が利用している代表的なSNSのひとつです。10代の利用率は72.9%と、中高生の利用率も非常に高いSNSで、特に女子の利用率が高いことが分かっています。
(参考:モバイル社会研究所 記事よりhttps://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20240606.html)
しかし、こうしたSNSの普及による利用年齢の広がりは、オンライン上でのトラブルやネットいじめ、悪質なアカウントからの接触の増加につながっている現状もあります。これをふまえ、10代の子どもを持つ多くの親や教職員が、子どもたちがSNS上でどのようなコンテンツを見て、誰とやり取りをしているか、を心配する思いが強くなるのは自然なこと。
SNS上には最新の、正しい情報が存在する一方で、極端に物事をとらえた情報や、中には悪質なものも多くあります。
しかし、まだ社会経験が少なく、精神的に未熟な子どもはこうした情報に影響を受けやすいとされています。
現に、アメリカなどでは、未成年者が利用するソーシャルメディア等に「オンライン上のいじめや性的搾取、薬物の宣伝、摂食障害などの特定の害を軽減するための合理的な措置」を執るよう求める法案を可決するなど、ソーシャルメディアは10代の子どもたちに害を及ぼすものという前提で数多くの議論が行われていることも事実です。
こうした背景もふまえて、Instagramはこれらのリスクに対応し、子どもたちを守っていくために、より厳格なアカウント管理を行うことを決定したのです。
ティーンアカウントはプライバシー設定の強化を目的に導入されたものです。Instagramの利用について、12歳未満は禁止されていることから、この対象となるのは13歳から17歳の国内利用者で、順次自動的にティーンアカウントに移行するとされています。
では具体的にどのような保護機能が備わっているのでしょうか。いくつか紹介していきます。
非公開アカウント | アカウントがデフォルトで非公開になり、フォローしていない人が投稿を見たり、やり取りをすることはできない。 |
メッセージ・交流の制限 | メッセージの受信は、フォロワー(本人をフォローしている人)からのみに制限する。またコメント欄やDMリクエストから不快な語句が排除される。 |
不適切なコンテンツの制限 | 最も厳しい不適切なコンテンツのコントロール設定が適用され、おすすめ欄等に喧嘩の動画や美容整形、商品の勧誘を勧めるコンテンツ等の表示を制限する。 |
スリープモードの適用 | 午後10時から午前7時までスリープモードがオンになり、夜間の通知がミュートとなる。 |
その他にも利用時間の通知が届く等、SNSが招く様々なリスクから子どもを守ることを目的に様々な工夫がされています。
(詳しくはInstagram公式のお知らせをご覧ください:
https://about.instagram.com/ja-jp/blog/announcements/instagram-teen-accounts)
実際に、偶然おすすめ欄に表示された二重美容整形の広告を機に、自分自身の容姿を過剰に気にするようになってしまった、というケースもあります。揺らぎやすい未成年の心を守る、という点においても、ティーンアカウントの制限は有用であると考えられます。
また、こうした制限の内容は家庭ごとに両親の判断で設定することも可能です。
ティーンの安全に関する設定を16歳未満のティーンが変更して保護レベルを下げるには、保護者の許可が必要になります。16~17歳のティーンは、保護者がアカウントのペアレンタルコントロールを利用しない限り、これらの設定を自分で変更できません。
SNS利用の家族ルールを、子どもと話し合うきっかけになることもメリットであると考えられます。
中高生が「裏アカ」を作成する背景には、さまざまな心理的動機が存在します。
「Instagramにハマっている高校生。日常生活の写真や動画を投稿しており、アカウントに鍵(非公開設定)はかけていなかった。ある日、ダイレクトメッセージで見ず知らずのアカウントから、裸の写真を送ることを強要するメッセージを受信した。メッセージには通っている学校名や所属している部活名も書いてあり、怖くなって写真を送ってしまった。」
このように、前回の記事で取り上げたような盗撮被害のみならず、未成年に対して「自分自身で裸の写真を撮影して送らせる」というケースは度々発生しています。こうした被害は、女子学生のみならず、男子学生が被害者になることもあります。
その他にも、趣味を通じたSNS上でのつながりがきっかけでトラブルに発展してしまうこともあります。
「女子中学生が推しのグッズ交換にSNSを利用し、グッズ送付のために住所や氏名の個人情報を交換した。無事に届いたが、交換相手からグッズが雨に濡れて届いたことを理由に返金を求めるメッセージが届いた。対応に悩んでいたところ、脅すような内容の手紙が自宅に届いた。」
このように家族の許可を得ず、安易に個人情報をSNS上で伝えることが、思わぬトラブルに発展してしまうこともあり得ます。
子どもたちをSNS上のトラブルから守るために、近年では保護者に向けたインターネット教育に力を入れている傾向もあります。
2021年の内閣府調査では、保護者は子どもの通っている学校を通じて、インターネット教育について考えるきっかけを得ている現状があることが分かっています。
実際に最も多かったのが学校で配布された啓発資料であり、保護者全体の90%以上が資料を閲覧する形で「インターネット教育について学んだことがある」と回答しています。
しかし、「インターネット教育」とひとくくりにしてしまうと、リアリティに欠けてしまったり、その認識には個々でバラつきが生じてしまうことも多くあります。
実際に親子間でインターネットの利用ルールを決めていない家庭も多く「具体的にどのようなルールを定めているのか」という点も、家庭によって大きく異なるのです。
「家族でルールを定めていても、子どもがどの程度守っているのか、分からなくて不安」
こうした保護者の漠然とした不安によって、ルールをどんどん増やしていくことは、子ども自身のストレス増加や親子関係の悪化に繋がってしまうこともあります。
だからこそ、上記でも紹介したティーンアカウントの制限内容は、「具体的に何を制限すれば良いのか?」「どのように気を付けるよう、教えていくべきなのか」こうしたことを教職員や親の立場から考えていく、基本としても生かせるのではないでしょうか?
「SNSで知り合った相手と気軽に会わない」「写真は撮らない・撮らせない・送らない」
このような危機意識をもとに、今後ティーンアカウントの制限機能がリスク回避をサポートしてくれるような流れができてきたら、効果的かもしれません。
(参考:こども家庭庁_令和5年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書よりhttps://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/results-etc/r05)
いかがだったでしょうか。
日々の学校生活の中で、子どもたちがSNSの使い方を学ぶ機会は増えてきていると感じます。しかし、例え学校で学んでも「それを知識として覚えたうえで、一人でそれを持続していくことは難しい」とも考えられています。
今や青少年のSNS利用は世界的に問題視されていますが、ティーンアカウントはまだ導入されたばかりで、今回紹介したような制限の機能だけでは守ることに限界があります。
だからこそできる限り早期に、私たち大人が子どもたち自身の危機感を育てていく必要があるのではないでしょうか。
今一度、ティーンアカウントが導入されるまでに至った背景や、実際の未成年トラブルの実態を把握し、その上で子どもと一緒に使い方を学んでいくような感覚を持っていくことが大切かもしれません。